適応障害と休職《つづき》
《適応障害》と診断されて3ヶ月くらいたったころ、体調が上向き始めて、自分のカラダがどんな状態なのかを理解したくて本やネットで情報を探した。最初にストレスホルモン。私の理解はこんな感じ。例えば動物の世界では、目の前に危険な存在(例えば自分がシマウマの場合、ライオン)がいると、危険信号が体に発信される(ストレス)。逃げるか、戦うか、全エネルギーをその行動に集中させる。その時、それには貢献度の低い器官(例えば逃げるのには即効はない胃の消化とか自律神経など)はひとまず後回しで、逃げる/戦う/生存するにパワーを集中させる。無事に逃げ切れた動物は、体をぶるぶると震わせたり、動物なりの「ストレスが終わったよ」という信号を脳に送るような行動をして、《通常》に戻る。動物の場合、逃げ切れるか、食べられてしまうかはわりと短時間で結論がでてしまうので、一旦後回しにした器官も比較的短時間でエネルギーが戻ってくる想定。
ところが人間の場合は、ライオンに食べられることはないが、それが例えば対人関係や、仕事、生活でのトラブルがそのストレスの原因になる。さらに、《記憶》のおかげで、トラブルが起きている場を離れても、その状況を思い出したりしてトラブルを度々体験する。脳では実体験か記憶からの感覚かの違いが理解できないので、その場で起きているかのようにストレスホルモンが分泌される。こうして本来短時間耐えられる仕組みになっているストレスホルモンが長期間持続する。その結果、自律神経がバランスを崩し、脳が萎縮して、適応障害やうつなどの精神疾患を引き起こすこともある。
適応障害で療養に入って、最初の1週間は家族にも連絡できなかった。心配かけるし、恥ずかしいという気持ちもあった。親友1人だけには話を聞いてもらい、彼女と生まれたばかりの赤ちゃんに隠れるように会いに行った。その後家族に会社に行けなくなったことを話して、会えるようになったが、外出するときはサングラスにマスク、帽子(コロナ前)とにかく人が怖かった。療養中だが、例えば骨折や怪我のように《見た目》で病気であることが分かりにくいので、バッタリ会社の人に会ったら「会社をサボっている」と思われるのではないか、という恐怖すらあった。1ヶ月くらい安心した環境(親友、家族、自宅の往復)で過ごしていると少し食欲が戻ってきて、「少し運動してもいいかな」と感じてきた。自宅でヨガマットを出して少しストレッチしてみる。サーフィン行ってみる。この頃、Wayne Dyer のI am 瞑想などのビデオをYouTubeで見つけてなぜかそれが響き、彼のオーディオブックを何冊も読んだ。
3ヶ月目が終わりそうな頃、「復帰してみようかな」という気持ちがやっとでてきた。休職してそのまま辞めるのはもったいないし、たとえ辞めて、次の仕事を見つけたとしても、ただでさえエネルギーが必要な新しい職場になじむ、ということを心身のバランスが万全でない状態で挑むことになる。それはきっと大変だから、復職してみて、それでできることをやってみよう。それでもダメだったら、またそれはその時に考えよう、そう思って復職した。復職したころ、コロナによるリモートワークが始まったころだった。《辛い場所》に変わってしまったオフィスに行かずに復帰できたことは、復職のハードルをだいぶ下げてくれた。
適応障害に関連した本を読んで印象的だったのは、1) 時間をかけて積み重なることで大きなストレスになること。適応力のある人でもその積み重さねで適応障害になること。 2) 適応障害で脳が萎縮する こと。対応しても、適応しても、日々削られて解決できない実感があった。そしてどんどん頭の回転が落ちていった。休職中、そして復帰してからも数ヶ月も「頭の回転が遅いな〜」と自分ではっきりとした自覚があった。いつもだったらパッパッとできることがスローモーションのように頭が回らない。前だったらびっくりするようなミスをする。そんなことが度々あった。1年くらいたったころ、「あ、元の回転に戻った」とはっきり実感できたことがある。1年くらいかかったのだな、とも。
療養中は、結果的にカラダのペースに合わせて過ごすことができた。後から本を読んで自分の状況とピッタリだったことに驚いた。ダラダラ期(将来のことも考えず、運動もせず、やりたくないことはなにもやらずただそのままで過ごす。自分の場合は完全に引きこもっていた)活動期(運動する意欲や食欲などがでてくる時期。やりたいことであれば取り入れる)復職準備期(活動の記録をつけて徐々に就業を見すえた1日の過ごし方ができるように準備する。周囲のサポートをもとめる)このフェーズをまさに通った。これは《一般的》な回復のプロセスなのか、と頭で理解できることで安心もした。
《適応障害》には起きる原理も治っていく原理もある。そして「脳の萎縮が起きる」のであれば、それがある程度回復するまで大事な結論は先送りできるだけ先送りする。カラダが戻ってくればちゃんと考えて結論を出せる体力が必ず戻ってくるから、まずはその力が戻るまで自分に時間をあげていいんだと思う。大丈夫。カラダの奥には回復力がある。大丈夫。
カフェでチラッと聞こえた「メンタルで会社休んじゃってて」
話していた男性に、直接話すことはなかったけれど、そんなことを、伝えたかった。心の声で。
[自分が参考にした本]